市場へ行こう! 6 |
ボクは食堂に飛び込んだ。そして視界の中に黒いコート姿を見つけると、いつもより大声を張り上げて叫んだ。 「おっはよう!ジョニー!」 座っているジョニーにそのまま飛びつくのも忘れない。ボクの迷いのない勢いあるダイビングにディズィーがとっさに悲鳴をあげる。 「メ、メイさん!」 ガチャン! 皿がにぎやかな音を立てる。頭の上からため息が聞こえた。 「おはようさん、メイ。朝から元気なのはいいが…食べ物を粗末にするのは誉められたことじゃないな」 ふと横を見ると、(多分ジョニーの分だろう)サニーエッグがひっくり返って散乱していた。 「メイ、バツとして掃除当番な」 「あっ…ご、ゴメンナサイ…ボク…ジョニー会えたのが嬉しくて…」 ジョニーが笑う。でもいつもより…なんか元気がないような…。ボクはいつものあの低い笑い声を出さないジョニーに少し不安を感じた。…何かが違う。 「何を言ってるんだメイ。昨日も会っただろうが。………そんな顔しなさんな。怒ってない」 ジョニーが頭を撫でてくる。ジョニーに優しく撫でられながら、 ボクの子供っぽさにジョニーはあきれてしまったのかもしれない、そう思った。ボクはお腹の底から反省をして、食事を済ませた後綺麗に食堂を掃除し、部屋に戻った。 「な、な…ナァアアアアアアイッ!!」 ボクは恐慌状態に陥っていた。セーターがない。部屋の中をボクは引っ掻き回す。散乱した衣服が部屋の中に散らばっても気になんてしていられない。 「ヴェノムさん…まさか…」 持って帰ってしまったんだろうか。寝ちゃったボクもボクだけど…黙って持っていくなんて…。ボクはどうしようかと部屋の中をぐるぐる回りだした。どうするもこうするも、取りに行くしかないじゃないか。いや、でもひょっとしたらまた今晩来てくれるかもしれない…でも…来なかったら? 「そんなにあの男に会いたいのか、メイ」 ドキッとした。ボクの大声にまたジョニーが心配してきてくれたんだ。ジョニーがこうしてボクを心配してきてくれたのはすごく嬉しい。すごく嬉しいけど…今度こそ気づかれたかもしれない。ああ、なんてボクはうかつなんだろう。なんども同じ失敗して…どうやってごまかそうか…。 「あ、会いたいっていうか…会わないといけないっていうか…その…ええと…」 ボクが一生懸命言い訳を考えていると、ジョニーがふっと笑った。 「お前さん、昨日から叫びすぎた。そのうち叫んでもいつものことか、と俺が助けにこなくなるぞ?」 ジョニーが軽く口に笑みを浮かべながら言う。でもその笑みの中に…やっぱり何か違うものを感じた。いつもと違う、何か。…でもそれが何なのかどうしてもわからない。 「ああそうだメイ、今日もまた王都に行くぞ。下船の用意をしておくんだな」 ボクは複雑な気持ちだった。ヴェノムさんに会いに行かなければいけないと思う。どうにかしてセーターを取り返さないといけない。だけど…どうしてもジョニーが気になる。 ボクが迷っているのがバレたのか、ジョニーが軽く耳を掻きながら言った。 「またあのハンサムボーイが俺に用があるらしいんだ。お前さんはお前さんで楽しんできな」 結局ボクは、下船した。ジョニーが「行け」と言うのに逆らえなかったからだ。こうなったら仕方がない。即効で用事を済ませてジョニーと合流することしよう。 ジョニーが元気がないのが気になるから…昨日のようにジョニーとのデートを強行してしまおう。そうしたらジョニーが少しは元気になってくれるかも知れない。だって、昨日のデート、ボクはすごく楽しかったし…ジョニーも楽しそうだったもの。 「じゃあ、ボク行って来るね。あっ、用事終わったら中央の広場行くから…ジョニーも早く用事終わらせてねっ?」 ボクはそう叫びつつ、あの裏路地へ向かって駆け出した。 「ジョニーさん。迎えに来るのはまた昨日と同じ時間でいいんですか?」 ディズィーが話し掛けてきた。俺はメイの後姿を見ながらディズィーの問いとは見当違いの言葉を吐いていた。 「メイは…いつの間にあんなにオトナになっちまったんだ?」 「…メイさんは…ずっと前から…オトナでしたよ?…ジョニーさん。気がつかなかったんですか?」 「…そうだな、馬鹿なことを言った。……昨日と同じ時間に。よろしくな、ディズィー」 俺はメイが消えた街に向かって歩き出した。 バタン!!リンリンリン。 激しいドアの開閉音とかわいらしい鈴の音が不協和音を奏でる。 「…なんですか…乱暴ですね。…ああ、あなたは昨日の…」 例の店員さんが、不機嫌そうに言った。相変わらず花の世話をしていたらしく手にははさみを持っていた。 「ヴェノムさんはどこっ!?」 「ヴェノム?ああ、そういえば…いや、別にこれは私が着たいと言ったのではなくてアイツがどうしても着ろというから着ているだけで別に…いや、でも別にアイツの言葉に従ったわけではなく、ちょうど寒くて着るものがなく…」 店員さんがあからさまに動揺した口ぶりで何か言っている。よく見てみると、昨日のあの全身タイツとは違って、かわいいエプロンの下が暖かそうなセーターだった。そのセーターの毛色にボクは見覚えがあった。 「その毛糸は…き、昨日ヴェノムさんが編んでいた…うあ…一晩で仕上げちゃったの!?エエエエエッ?人間技じゃないよっ」 「どうかしましたか、ザトー様」 ボクがヴェノムさんの力量に唖然としているとその本人が奥から現れた。手には編み棒…もとい、キューを持っていた。キューには昨日と同じ毛糸が絡まっている。すごいことに、次の作品をもう作り始めているようだ。 「…君か。セーターを受け取りに来たのか」 ボクははっとした。そうだ。セーターを取り返さないといけない。 「そうだよ!なんでセーターを持って帰っちゃったんだ!ボク、どうしようかと…」 ヴェノムさんは奥に戻った。そして、すぐに、かわいらしくラッピングされた包みを持って戻ってきた。 「ラッピングを施そうか?と聞いたら「そうしてくれ」と言ったのは君ではなかったか?」 ボクは記憶を総動員してみた。…覚えてない…。昨日の夜、ボクはいつ寝たのかさえも覚えていないのだから。 「うう?じゃあ…ボク…セーター完成させたんだ?ほ、本当に?」 ヴェノムさんはラッピングされたセーターをボクの目の前に差し出すと言った。 「それは…あけてからのお楽しみというものだろう」 「ありがとうっ、ボクっ、早速ジョニーに渡してくるね!」 かわいらしいその包みをボクは受け取った。これを渡すために今までいろいろ苦労したんだもの、もう何も考えることなんてなかった。二人をおいて、ボクは駆け出した。 BACK / NEXT |
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prezented by Akasa Rira 2002 |