市場へ行こう! 2

船が降りた場所は、この世界に住むものならほとんどのものが知ってるであろうとある大国の船着場だった。
「…ちょ…ちょっと…ジョニー平気なわけ?」
ジョニーが何事もなかったかのように下船していく。ボクは疑念を抱きつつも、慌ててジョニーの後に従った。ボクとジョニーだと脚のパースが違いすぎる。普通に歩いていたらすぐに距離を離されてしまう。 当然、いつもジョニーはボクに歩調を合わせてくれるので置いていかれることなんてないんだけれど。
それにしても…周りが気になる。一応義賊とはいえ、ボク達は快賊。多分、こんなところに停泊したら警察機構が見咎めないはずないからだ。
「平気じゃないだろうなぁ。…というわけで、しばらく俺たちだけ別行動だ」
「えっ?!」
非難の声をあげようとした時だった。船が勢いよく宙へ飛び立った。
「な、なななななな、なっ!ジョニィイイイイーッ!ちょっとディズィー!待ってよ!ちょっとおおおお〜!」
ボクは慌てて声を張り上げた。メイシップはボクとジョニーを残し、高速で遠方に消えていく。
「メイ。騒ぎすぎだ。それこそ警察機構に見咎めてくれって言ってるようなもんだ」
ボクの声なんかより、メイシップが今そこにあった時点で警察機構が動いてるに違いない。あれほど大きいものを見逃すはずがない。

「さ、行くか」
自分が賞金首なのを自覚していないみたいに、ジョニーは平然とした態度で街に向かって歩いていく。 ボクはつられて歩き出した。
だいだいジョニーの風体は目立つ。背が高くてカッコイイから異様に目立つんだ。更に、普通のヒトは持っていない日本刀を腰に携えている(隠しもしないんだから!)こんな目印そのもののような人間はそういない。警察機構に捕まえてくださいって言ってるようなものだ。
ボクは必要以上にそわそわしてあたりをキョロキョロと見回すハメになった。
「メイ。それじゃあ自分が怪しい奴だと言ってるようなもんだぜ?」
「だ、だって警察機構が…」
ボクが心配そうにつぶやくと、ジョニーは「大丈夫だ」と低くつぶやいた。あのいつもの笑顔付きで。
「…ん。そうだね」
ボクは腹をくくった。偶然(必然?)にも手に入れたジョニーとのデート。楽しまない理由はない。それに、ジョニーのいう事は絶対間違っていないんだ。

だいたい、街に近づくとボクにとって、警察機構なんてどうでもいいことになっていた。そう、もっと別の心配をしなければいけなくなったから。
ボクとジョニーが歩くと、女の人が十中八九振り返るんだ。
原因はジョニー。目が会う女の人すべてにあの微笑を配って歩いている。ジョニーの微笑に我を失わない女の人なんていない。みんな、頬を染めて信じられないような顔して突っ立っている。 あからさまに指を指して友人らしいヒトときゃいきゃい騒いでいるオンナノコさえいる始末。
当然、ボクとしては面白くない。折角のジョニーとのデートも、他のオンナノヒトがいるんじゃ楽しめない。
「ちょっとジョニー!どこ見て歩いてるのっ!まっすぐ前見て歩きなよ!…いや、むしろボクを見て。見るならボクを!!これじゃあデートにならないよ!」
「はいはい。ちゃんと見てますよ、お姫様」
ジョニーがまたくっくっく、とのどを鳴らすように低く笑った。 ボクはそんなにおかしいことを言っているだろうか。
「いつ、デートになったんだか」
あ、言われてみればそうだ。でもここで頷いちゃうのはなんだかもったいない気がする。考えてみれば今日は二人っきり。ジョニーに甘えるまたとないチャンス!
「ジョニーボクは…」
ボクが口を開いた瞬間、…ジョニーの大きな腕が突然ボクを引き寄せた。ボクはジョニーに抱え込まれるような形になって声をあげられなくなってしまった。…胸がすごくドキドキしている。

「ただいま、お姫様とデート中でね。無粋なことは遠慮してもらいたいんだが」
「あんな派手な登場の仕方をして…もう少し抑え目にしていただきたいものですね…あなたという人は…」
聞き覚えのある声。ボクは慌ててジョニーの腕の中で無理やり振り向いた。
そこには、警察機構の若いエリートが立っていた。確か、ジョニーに面識のある警察機構の人だ。そう、名前はカイって言った。結構警察機構でえらい位置にいる人だったような…。
女の人も泣いて謝りそうな(?)美貌の騎士様だ。ジョニーの足元には及ばないけどね。
何にせよ、二人の会話には険悪なものは感じられない。ひとまず、ボクは今のこの状況を楽しむことを優先することにした。
公衆の面前で、ジョニーに抱きかかえられている。そう考えるだけで気分が高揚する。ああ、ボクは生きていて良かった。
「この方がメイさんですか…」
突然名前を呼ばれてボクは現実に呼び戻された。何故、この人はボクを知っているのだろう。ボクが慌てて振り向いたとき、上からジョニーの声が降ってきた。
「ま、その話は後でな」
ジョニーがいつになく冷たい声で言った。ボクがこの男の人に興味を持たれたことに嫉妬を感じているんだろうか。有無を言わさない口調に、綺麗な男の人は黙った。
「さぁ、メイ。デートの続きをしよう。お前さんが行きたいと言っていたところはもう少しだ」
ジョニーはボクを抱きかかえるのをやめ、変わりに手を握ってきた。そのままジョニーの強い腕に引かれてボクは歩いていく。さっきのあの人は顔に苦いものを浮かべながら、ずっとこっちを見ていた。

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prezented by Akasa Rira 2002