市場へ行こう! 1

「ねぇ、ジョニー!ボク、買い物に行きたい!それも…どんなものでも売っていそうな…すごいお店に!ねぇ、いいでしょう?たまにはいいよね」
ボクは久しぶりにジョニーにおねだりをしていた。どうしてもボクは手に入れたいものがあったのだ。それも早急に。
「別にいいが。何がほしいんだメイ」
「う。べ、別にほしいものなんてないよ。オンナノコとしてウィンドウショッピングしたい気分なんだ」
ボクはジョニーから顔を背けた。顔を見られたら絶対悟られる。顔をじっと見つめられたら、ジョニーに隠し事なんてできるはずもない。
「そうか」
ジョニーはくっくっく、と低い笑い声を混じらせながら、そうぼそりとつぶやいた。
「なに笑っているの?」
「いや、なんでもないさ。近く船をおろす用事がある。その時にまでは待てるな?」
ジョニーが何を笑っているのかわからなかったけれど、ボクはジョニーの言葉に有頂天になって、首を上下に振りながら、二つ返事をした。
「うん。楽しみだなぁ〜」

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「ああっ、イライラするっ。どうして…こう思い通りに…あっ…うううう〜」
ボクは、部屋のベットに座って30センチくらいの細い棒で毛玉と格闘していた。
既にこの戦いをはじめて3ヶ月。もうすぐ春だ。間に合わせないと…。
大きく空いた穴。転がっている毛糸玉。どうみても、足りない…。
「ううう、このままじゃあ…お腹か背中か腕がないものになっちゃう…よれてるし、曲がってるし…どうしよう…」

「メイさん」
不意に部屋の外からディズィーの声が聞こえた。
「あっ、あっ、ディズィー。な、なにかなっ?」
ボクは、慌てて毛玉たちを一つにまとめた。慌てているからなかなか綺麗にまとまらない。それでも、無理やりまとめて背中のほうにおしやった。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?入りますよ?」
ディズィーの心配そうな声が聞こえる。
その瞬間ドアが開いて、ディズィーが部屋に入ってきた。
「あっ、あっ、な、なな、な、なんでもないよっ?」
できるだけ冷静を装いながら、ボクは答えた。実際声はうわずっていたけど。
ボクの慌てぶりにちょっとディズィーは驚いたみたいだった。
でも部屋の様子におかしいところがなかったのを認めて安心したような顔をしていた。
「ジョニーさんが呼んでらっしゃいましたよ?」
「わかったよ、ディズィー。早速ジョニーのところに行かなきゃ!ありがとう!」
ボクは無理やりディズィーを部屋から押し出した。ディズィーはちょっと不思議そうな顔をしていた。
ごめんね、ディズィー。でもこれは…ジョニーに渡すその時まで、誰にも秘密にしておきたいんだ。
ディズィーが去った後、毛玉を隅の衣装箱に詰め込み、ボクは慌てて飛び出した。どんなときだって、ジョニーがボクを呼んでくれるのはすごく嬉しいから。

「何?ジョニー!」
ボクはジョニーの部屋に叫びつつ飛び込んだ。ノックしてから入るべきだったんだろうなぁ。
そこには、ジョニーが上半身裸で、更にズボンのホックに手をかけている状態でボクを見ていた。
「メェイ…」
「ちょっと!女の子呼んでおきながら着替えしてるって、どど、どういうことなのっ、ジョニー!?」
ボクは慌てて部屋の扉を閉めた。
「まぁこれにはいろいろ事情があるんだが…。それはさておき。…こういう時、お前さん、外に出るべきじゃないのか、メイ。それとも俺の着替えとやらをそんなに見たいのかい?」
くっくっく、といつもどおり低い笑い声を交えながらジョニーが言う。
「べ、別にジョニーの裸なんて見慣れてるもん。」
ボクはそっぽを向いた。やっぱり「レディ」が「男」の着替えをまじまじ見るのはよくない。
「そんなことより、何?ジョニー。ボクに用があるんでしょう?」
コートを羽織る音がしたから、僕はジョニーに向き直った。案の定、もうジョニーはいつものカッコウで飄々とたっている。
「ほしい物があるから、下船したいって言っていただろう?」
ボクの脳裏に数日前、ジョニーに言った台詞がよみがえった。
「あ、確かに。あれ、じゃあ今日船を下ろすの?」
「ああ。十分羽根を伸ばしてくるんだな」
ジョニーが笑う。ボクは、ジョニーのこの笑顔が一何よりも大好きだ。
「ね、どこに下りるの?今えーっと、どこらへんの上空にいるんだっけ…」
ボクは最近、自分が部屋に閉じこもっていることに気がついた。そういえば、今この船がどこにいるのかさえも把握していない。
「さぁな。どこだったか。俺も忘れた」
ボクはジョニーの言葉に仰天した。ありえない!それは絶対ありえない!
「隠し事してるっ。ジョニーッ。ジョニーはボクに隠し事をしているねッ?」
相変わらずジョニーはポーカーフェイスを崩さず、微笑んだままだ。
「お前さん…なんでそう疑り深いんだ。ないない、なにもない。さぁ、メイ。下船の準備をしてくれ」
少し気になりはしたけど、ボクは追求しないことにした。

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prezented by Akasa Rira 2002