どこまでいけば、たどり着くの?

「なぜ…なぜ、裏切ったのだ!」
月明かりの元、彼は私を見て泣き叫んでいた。
淡い月明かりだけが当たりを照らしている。
光の届かない暗闇の中には、緊迫した空気に怯える生き物の気配が感じられるだけ。
私は、目を細めてその姿を無言で見つめた。
わずかな月明かりでも、その存在を誇張するように銀色の髪は輝きを放っている。
まるで彼の怒りを代弁するかのように。

その銀糸に遮られて窺う事のできない顔。
見なくてもわかる。
殺意を込めて深い海のような青い目で、この私をにらんでいるのだろう。

純粋に、他人に自分を委ねられる貴方がとてもうらやましい。

私の煮え切らない態度に痺れを切らしたのか、脇に抱え込んでいたキューをヴェノムは握りしめた。
私は、組んでいた足をおろし、立ち上がった。
いつでも跳べるように。

「人形は…夢を見たら人形でいられなくなるわ」
私がささやくようにひとりごちたその瞬間、キューの先が私の頬ギリギリを掠めた。
「人形は夢など見ない」
私への怒りからか、いつになく感情が露わな声を出しながらヴェノムは私を追い立てる。
でも。冷静さを失った動きを見抜けない私ではない。
軽くいなすと、後方へ飛んだ。
着地と同時に、月の光さえ届かない、漆黒の闇に向かって駆け出す。

人形のまま、夢など見ない方が良かったのだろうか。
与えられるものに疑問を持たず、全てを受け入れていれば良かったのだろうか。

暗闇の中を走る私には、追い立てられる不安と目の前が見えない恐怖だけしかなかった。
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prezented by Akasa Rira 2002